マイホームについて話すタイミングが、結婚や出産などライフステージの変化と重なることは珍しくありません。
しかし、家族が増え、現在の住まいが手狭になったからといって、本当に家を建てる必要があるのでしょうか。
今回は、一級建築士である私の考えをお話しします。
家を建てることは、手段であり目的ではない
「家は必ずしも、建てなければいけないものではない」と私は思っています。
本来、家を建てる行為は、手段の一つにすぎません。
結婚や出産を機に家を建てる方が多いことは事実ですが、「周りがそうしているから……」という理由で家を建てる必要はないのです。
家庭によって、ライフスタイルやライフプランは異なります。
まずは「家を建てる、建てない」ではなく、「どのように暮らしたいか」を思い描いてみましょう。そうすることによって、自然と充実した家づくりに繋がり、成功への近道になります。
“住”の価値観を共有し「何のために家を建てるのか」を考える
「どのように暮らしたいか(理想)」と同じように、「何のために家を建てるのか(目的)」も大切です。
そして、この目的を考える際に、衣食住の1つである“住”の価値観を共有することも大事になってきます。
日本では、昔から生活する上での基本を「衣食住」と呼びます。
特に「衣」と「食」は、家庭科の調理実習や被服実習で詳しく学ぶ機会も多いでしょう。
また、日常でも「今日は何を着ようか」や「今日は何を作ろうか」と、毎日のように考えます。
このように「衣」と「食」は、私たちの暮らしと密接に関わっているのです。
けれども、「住」についてはどうでしょう。
学校では、図工や技術の授業中に家具作りをしますが、「どのような生活環境が快適か」という深い部分までは教えてくれません。
日々の生活の中でも家について考える機会は少なく、実家を出る際に、初めて住まいについて考える人が多いと思います。
しかし、「住」に関する価値観は育ってきた環境が大きく影響します。
いざ家を建てるために話し合いを始めると、家族間で意見が分かれてしまうのはこの「環境の違い」が原因です。
無駄な衝突を防ぐためにも、最初に“住”に対するお互いの価値観や「何のために家を建てるのか」などを話し合い、共有しておきましょう。
暮らす家族がリーダーで、住宅会社はパートナー
ここまでの話を聞いて「価値観の共有なんて難しい!お金さえしっかり払えば、住宅会社がなんとかしてくれるものじゃないの?」と、思う方もいるでしょう。
しかし、住宅会社に何も要望を伝えずにお金だけ支払ったとしても、満足のいく住まいは完成しません。
なぜなら、住宅会社やそこに紐づく職人さん達は、専門家として家族の要望を叶えることが仕事のため、要望がない状態では動けないのです。
家づくりでは、その家で暮らす家族がリーダーであり、住宅会社は専門的立場のパートナーになります。
リーダーである家族が、パートナーが動きやすいように互いの価値観を共有し、要望をまとめて伝えなければ家づくりは行えません。
住宅会社や職人さん達のためにも、しっかりと家族内で価値観の共有を行いましょう。
暮らし方(ライフスタイル)を考えよう
要望を上手にまとめるには、暮らし方(ライフスタイル)に焦点を置いて話し合いましょう。
暮らし方(ライフスタイル)とは、有限であるお金と時間をどのように配分し、豊かで幸せに生きていくかということです。
そして、お金は生涯収入を、時間は寿命を意味します。
例えば、
・便利な街中居住は土地の取得費用が高いけれど、移動時間も確保でき、家の費用も抑えられる
・移動時間が長い田舎の土地を買うと、取得費用は安くなり家に十分な費用をかけられるため、生活環境の充実に繋がる
・旅行が趣味で家を空けることが多いため、土地や建物のコストを抑えて旅費にまわす
など。
このように、何かを抑えた分、何かを得ることにも繋がるのです。
例に挙げた、家や土地ではなく旅費に投資するケースのように、家以外を優先することで、家族が豊かで幸せになる場合もあります。
「何に投資するか」「お金と時間の割合をどうするか」を明確にするためにも、価値観の共有は細かく行いましょう。
この価値観共有を経て、ようやく家を建てる準備を始められます。
自分達にあった暮らし方(ライフスタイル)を理解して、家づくりに取り組んでくださいね。