2024年1月1日16時10分、令和6年能登半島地震が発生しました。
マグニチュード7.6、最大震度7という非常に大きなもので、本コラムを執筆中の1月19日時点でも被害の全貌は明らかになっていない。
本震災で被災された方々には、心よりお見舞い申し上げます。
一級建築士として、家づくりをサポートするサービス運営者として、この地震に対して無視することはできません。
弊社としてできることは、復興に向けて動き出す方を含めたこれから家づくりをする方々に、地震や災害対策について情報提供することだと考えております。
家づくりに対する災害対策は主に建物と土地の2つに分けられます。
建物側は耐震対策、土地側は地盤対策です。
建物側の耐震対策でキーワードになっているのは、コストを負担して許容応力度計算(構造計算)を実施するかどうか。
(※地盤対策は後編)
住まいの耐震対策
耐震性能の歴史
今回の地震で相当数の建物が倒壊しました。
倒壊の理由の一つに、耐震性能の問題があります。
1981年を境に建築基準法における耐震基準が大きく変わっており、新耐震と旧耐震に分かれています。
しかし、事実上の分岐点は2000年と考えられるでしょう。
理由は確認申請及び完了検査の実施率の変化です。
建築基準法において、一定規模以上の建築をする時に着工前の書類審査として確認申請、完成後の確認として完了検査があります。
増渕昌利氏、高田光雄氏の「建築基準法に基づく完了検査実施率の向上に関する研究」において、1999年まで完了検査実施率が40%以下と低く、特に非住宅系(1号~3号建築)よりも、住宅系(4号建築)の実施率が低い。
それが2000年の「住宅の品質確保の促進等に関する法律(通称:品確法)」のに施行に伴い、完了検査実施率が急上昇している。
完了検査を受けなかった理由は様々あるが、2000年以前は完了検査未実施で、確認申請通りに建てられたかどうかわからない建築が多いことがわかる。
耐震性能が定かではない建築が多いことが、災害時の被害拡大の要因と推測されます。
ちなみに、令和6年能登半島地震と規模感の近い2016年の熊本地震(M6.3とM7.3が立て続けに起きた)では、木造住宅の倒壊率が異なる調査データがあります。
・旧耐震基準:倒壊率28.2%(214棟)
・新耐震基準:倒壊率8.7%(76棟)
・平成12年以降:倒壊率2.2%(7棟)
(参照:「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書のポイント)
過去の地震からも2000年以降の家の安全性が高く、2000年以前の住まいに暮らしている方はより高い防災意識が必要と言えるでしょう。
4号特例による一部審査の省略という問題
建築基準法で主に木造住宅が分類される4号建築というものにおいて、一定条件を満たすことで確認申請の一部審査省略が行われています。
一定条件とは建築士が設計を行った場合等なので、ほぼ満たす条件となっているでしょう。
省略される審査は構造耐力関係規定等となっており、耐震性能に関する規定になります。
省略されている理由は様々あると思いますが、逆に省略されていなければきっと審査機関の人員不足で着工遅延等が多発していたでしょう。
ただし審査が省略されていた構造耐力関係規定等の一部は、品確法において追及されるようになった瑕疵担保責任に対して住宅会社側が加入する保険の審査要件になっています。
このような視点からも、2000年を境に事実上の建築基準法の構造的な安全性を満たしているか否かが分かれているでしょう。
ちなみに2025年から4号特例が改正され、省略される審査項目が減る予定です。
より安全性の高い住まいが増えるように政府は動いています。
建築基準法は簡易計算でOKという課題
前述の通り、法改正で少しずつ安全性が担保されつつあります。
建築基準法における木造住宅の構造体力関係規定の確認方法として、「壁量計算」と「N値計算」の2つがあります。
「壁量計算」は、地震や台風の力に対して耐力壁(構造上有効な壁)がバランスよく配置されているかどうか。
「N値計算」は、柱や梁の接合部の強度計算です。
しかし、これら建築基準法の規定は最低限の確認であって、建物すべての安全性を確認できるものではありません。
緻密に安全性を確認するのに必要なのは「構造計算」です。
品確法で定められている住宅性能表示制度の中に、近年よく耳にする「耐震等級2」や「耐震等級3」というものがありますが、これらを証明するにも構造計算は必須となります。
住宅業界でたまに耳にする「耐震等級2相当」という表現は、構造計算を行っていなかったり、必要な検討項目を検討しないまま表現されている場合があるため十分に注意して下さい。
費用、時間、技術者不足の構造計算
「構造計算」とは、前述の壁のバランスや接合部の強度以外により緻密な計算を行う方法です。
一般的な木造住宅の場合、許容応力度計算で計算されて下記のような項目について確認します。
・壁量計算
・壁の配置バランス
・水平構面(床のバランス)
・柱頭柱脚の接合方法
・柱や梁、横架材など部材検討
・基礎設計
・地盤調査
・地盤補強工事
見ての通り、検討項目が沢山あることがわかります。
これらの計算書をまとめると、A4用紙で100枚を超えることが一般的です。
つまり、業務負担が増えるから費用(30万円以上)がかかるし、通常の設計よりも1か月以上余計に時間がかかり、簡易計算よりもより多くの補強が必要になって工事費が増加することもあります。
また一般的な設計よりもワンランク、ツーランク上の知識が必要なため、できる技術者も限られています。
ただでさえ減少傾向である建設関係従事者の中で、技術者育成が必要なのは業界の大きな課題でしょう。
少しずつ認識は広がっていますが、義務ではないという観点や特に被災経験のない建築主からは、構造計算の重要性が軽視されているのが現状です。
安全性の確認には負担がかかる
耐震対策の法的な規制の流れや、計算手法の違い等、まだまだ日本の家づくりは改めるところがあるでしょう。
それは事業者側だけではなく、家づくりをする建築主側の理解もです。
災害対策は保険のようなもので、万が一起きた時に安全性を確保するのが目的。
災害が多い日本で暮らすにあたって、先人の経験を参考にしながらどれだけのリスク管理をするか問われています。
対策をしないのであればもしもの時のリスクは理解すべきです。
リスクを回避したいのであれば、費用や時間的な負担を受け入れるしかありません。
それぞれの価値観、考え方によって異なるので、家づくりをする際はご家族でよく話し合ってください。
(※地盤対策は後編へ)