
2026年4月11日現在、日本の住宅業界は「ウッドショック」を超える未曾有の危機、「ナフサショック」の渦中にあります。
コロナ禍に起きた「ウッドショック」は構造材となる木がないことでしたが、「ナフサショック」は石油由来の建材である断熱材、配管、仕上材が不足していることを意味します。中東情勢の緊迫化が、なぜ私たちのマイホーム計画にこれほどまでの影響を与えるのでしょうか。どのような対策が考えられるか解説します。
なぜ中東のニュースで「家の価格」が上がるのか
今回の危機の根源は、中東での軍事衝突とホルムズ海峡の封鎖懸念にあります。日本が原油精製過程で得る「ナフサ」の価格は、危機前と比較して44%以上も高騰しました。この「ナフサ」はプラスチックや断熱材、塗料の主原料であるため、エネルギー価格の上昇がそのまま「家を建てるコスト」を押し上げているのです。
意外と多い住宅の中の「石油由来」の建材
現代の家は石油製品の塊です。以下の部材は、すべてナフサショックの影響を直接受けています。
- 断熱材:ウレタンやポリスチレンフォーム、フェノールフォーム
- 水まわりの配管:給排水設備に用いられる塩化ビニル管
- 内装仕上げ:ビニールクロスやクッションフロア
- 仕上げの工程:内外装の塗料や塗料の希釈材となるシンナー
- 接着剤:集成材や合板に使用されています
- 樹脂製品:トイレやユニットバス等の住宅設備機器の部品に使用されています
2025年の法改正により断熱性能の義務化がはじまり、断熱等級6や7といった高性能住宅も珍しくありません。
健康で快適で省エネな暮らしが実現できるという観点で家づくりする方々にメリットがありますが、高い性能にする分の断熱材が必要といった何とも皮肉な影響が出てしまいました。壁や天井のビニールクロス、水廻りの床に使うクッションフロアは、大多数の会社が採用する一般的な仕上材のため、使用しないということはあまり現実的ではありません。
2026年4月時点のメーカー各社の緊迫した対応
● 歴史的な値上げ
カネカが「カネライトフォーム」を40%値上げし、LIXILも水栓金具(平均15%)やキッチン(平均6%)などの価格を改定しました。中でもシンナーは最大75%〜80%の値上げや、製品によっては出荷停止となるものもあり、工期の最終段階でトラブルが相次いでいます。
● 出荷制限の導入
断熱材や防水材メーカーは、過去の注文実績を上限とする「出荷制限」をかけています。
● 新規受注の停止
屋根や床材メーカーの田島ルーフィングは4月10日、トイレやユニットバス等の住宅の設備機器メーカーのTOTOは4月13日から製品供給の安定化を図るため、新規受注を一旦停止する措置をとりました。TOTOは4月20日を目途に段階的に受注を再開すると報道されていますが、通常の出荷ペースではないことが想定されます。
このように多くのメーカーが値上げ、出荷制限、新規受注の停止といった対策を時々刻々ととっています。2026年4月時点でいくつかの住宅会社にもヒアリングしたところ、3月上旬に発注した断熱材が1ヶ月遅れで入ってきたとか、発注しても納期がわからないといった回答があり、既に現場では価格高騰の次のフェイズである物が入ってこない現象が起きているようです。
今後予測される影響は、更なる価格高騰、工期延長、着工の遅れです。ウッドショックの時もよく聞かれましたが、情勢が落ち着くまで待てば価格が落ち着くのかというと、残念ながらそうではありません。歴史的に見ても資材高騰の波が完全に引くのを待って成功した例は少なく、むしろ高騰したコストが新たな「標準」となっています。ここ数年、住宅ローン金利の引き上げも発生しており、住宅ローンの返済負担の増大が懸念されます。また、新築供給の減少により中古住宅や賃貸価格まで引き上げられる連鎖も発生し得るかもしれません。
住宅取得者としてできる対策
このように家づくりを考えている方々には暗いニュースですが、情勢が落ち着くのを待つのも過去の流れから得策ではないと考えられるため、注意しながら動くのが最善策となります。主な注意点は4つ考えられます。

令和8年4月13日に国土交通省住宅局住宅生産課から「中東情勢等を踏まえた対応について」という事務連絡が公表されています。住宅取得者向けより住宅生産関係団体向けの内容ですが、ご紹介しておきます。連絡の内容は主に4点です。
- 建築主への情報提供等について
- 住宅建材・設備の変更の手続について
- 住宅建材・設備に関する情報収集への協力等について
- セーフティネット貸付について
これから家づくりする方というより、既に契約済みもしくは着工済みの方に対して有効な内容です。特に「2.住宅建材・設備の変更の手続について」は、異例の柔軟な対応を行う旨が記されています。通常、工事期間中の断熱材の変更には変更申請で時間を要するのですが、今回は同一性能であれば軽微な変更という簡易的な形で対応してくれるそうです。また建築設備(トイレ、お風呂、キッチン等)が取り付いていないと完了検査(審査機関の現場検査)を受けられないのですが、今回は完了検査を受けられるように対応する柔軟な運用が始まります。国土交通省がこのような緊急メッセージを事業者向けに発信し、法文にない柔軟な対応を明言するのは珍しく、事態の重大さを表しています。
ウッドショックの時同様、世界情勢の影響を受けた時は、大手だろうが何だろうが日本の一企業が頑張ってもどうにもならないのが現実です。住宅会社の方々も通常通りの仕事ができず、仕事は増えるのに利益は増えないどころかマイナスになっていきます。
家づくりにおいて建て主である施主と住宅会社は運命共同体です。苦しい時こそ相互理解を図って、協力し合えるかどうかが大切なので、密にコミュニケーションが取れるパートナーを見つけていきましょう。また、価格高騰で家計への影響が大きくなることは避けては通れないので、しっかりとした資金計画をはじめとした家づくりの計画が最重要です。まずは情報取得や学習、資金計画のために、第三者の相談サービスに相談することも検討して下さい。

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